人間の体で生成されるホルモンは、身体の恒常性を保つため、さまざまな臓器、細胞の機能を最適な状態に保つために多くの役割を果たしています。
多くのホルモンは血液中を流れて、全身の臓器、細胞に行き渡り、必要な場所でその機能を果たしていきます。 その中でも特に、最近、テレビや雑誌で「ヒト成長ホルモン」がしきりに紹介されています。
ヒト成長ホルモンは脳の一部である脳下垂体前葉という部分で作られる特殊なホルモンで、その名が示すとおり、人間の「成長」に関する働きを持っています。 英語で”Human Growth Hormone”といい、よくその頭文字をとって”HGH”と表記されています。
ヒト成長ホルモンは様々な組織の健全な新陳代謝をうながし、タンパク同化作用(筋肉や髪を作る)、脂肪分解作用、骨伸長作用(身長が伸びる)、皮下組織水分貯留作用(肌がスベスベになる)などの作用があり、結果的に多くの器官によく見られる老化の進行を遅らせることができるそうです。
しかしながらその成長ホルモンのが体内で分泌される量は、3~17歳がピークで、20歳を過ぎると10年間に14%の割合で徐々に分泌量が減り始めます。そして60歳にもなると、75%減も決して珍しくは有りません。
このように当然ですが、成長ホルモンの分泌を含め、年をとってくると次第に身体機能が低下してくるのです。
そのような中で、東洋でも昔から不老長寿などを目指す思想もあり、「若返りたい」という願望は、人のの常だと思います。
身体を若返らせることを、「アンチエイジング(antiaging)」と呼び、すでに国内外でも産業化されています。その中でも、米国では1万人がアンチエイジングのためにとても高価な成長ホルモンの注射を受けているというのです。
成長ホルモンは、一流医学雑誌の論文によれば、高齢者に成長ホルモンを投与すると、筋肉量が増え、体脂肪量が減るのだそうです。
成長期を終えた後も、成長ホルモンは微量ながら心身ともに健康を維持する為に分泌し続けます。
怪我の治り、健康な髪の毛と肌、脳と内臓の正常機能、健康な骨の維持等、いずれも健康を維持する上で不可欠な役割を果します。
成長ホルモンが正常に分泌されていると、筋肉の健康的な維持、体力維持、疲れにくくなる、体脂肪が減る(特にお腹の周り)、骨の強化、肝腎機能の向上、脳の活性化、シワが無くなり肌が若返る、白髪抜け毛予防、コレステロール値の減少、間接の強化、そしてパーキンソン、アルツハイマー病、又エイズ患者にも体調を良くする効果が有ると確認されています。
バクテリアの感染を防ぐ免疫細胞の能力を高めたり、アレルギーや感染から来る病気が、回復へと向かった事や、免疫力を維持する役割にも寄与しているようです。
動物実験ですが、成長ホルモンが肺ガンの進行を著しく遅らせたという事もあるようです。
このように健康な体を維持するには、年齢に応じた適切な成長ホルモンの分泌が大切であるということが科学的にも証明され、注目されているのです。
成長ホルモンの投与
その成長ホルモンを、美容外科などで注射で投薬するようですが、半年分で200万程度するようです。一部のセレブのための療法といわれているのもこのためです。
以前海外では人の死体の下垂体から抽出をして利用していたようですが、現在は遺伝子組み替え技術で抽出されたアミノ酸191個が連鎖する人成長ホルモンが使用されているようです。遺伝子組み換えでさえ、よくわからないものですから不安です。
注射で体内に注入する方法が主流でしたが、高額なため一般人にはなかなか手が出ませんでしたので、注射で体内に注入する方法と似たような効果があるとして口の中の舌下粘膜にスプレーするスプレー式成長ホルモンや、成長ホルモンを増加させるというサプリメントが人気を帯びています。
成長ホルモン投与の副作用
あるサイトでは癌患者がHGHを外部から摂取すると癌も成長するという意見があります。これに対してアメリカでは癌は成長しないという意見が現在の定説といっているサイトもあります。このあたりはまだよくわからないところのようです。
しかしながら、副作用として 血液中のIGF-I(成長ホルモンにより増えるホルモン、IGF-Iが高いことは成長ホルモンが高いことを反映する)の濃度が高いほど前立腺癌の発症率が高い、という研究の発表の他、成長ホルモンが投与された人では、大腸がんやリンパ腫などの発症率が上昇し、がんによる死亡率も高くなるとの報告もあります。そればかりではなく、成長ホルモン投与は、糖尿病の発症率も上昇させるそうです。
何でもそうだと思いますが、人間が衣服を身につけ始めて体毛が退化したように、体外から成長ホルモンを摂取するということは、そのホルモンを分泌するメカニズムや、又それと共同して働くメカニズムなどにも狂いが出てくるのは当然だと思います。人体への過剰なホルモンの投与は想像以上の危険な副作用をはらんでいるということは、多くのホルモン療法でもすでに実例も多くあることから、成長ホルモンも例外ではないのではないでしょうか。
体内のホルモンバランスは自然なもの
加齢に伴い、私たちの体の中では、ホルモンをはじめとした様々な物質の量が減っていくのです。もちろん、これらの物質が足らないために身体機能が低下しているのかもしれないのですが、逆に身体機能の低下に応じて減ってきている可能性もあるのです。
もし、成長ホルモンが低下したために老化が進行したのであれば、成長ホルモンを補てんすることにより若返るかもしれませんが、老化という現象に順応した結果、成長ホルモンが低下しているのであれば、それは何らかの理由がある事であり、成長ホルモンを無理に外部から投与することはかえって害となると考えることができます。
老化は私たちが考えているほど単純なものではないはずです。
人間の高度な生理メカニズムは、どのような科学や医学が頑張っても、まだまだ真似をすることができないのは当たり前です。
成長ホルモンも人間の成熟に応じて大人になってからも分泌されています。
老化していく体を維持するためには、この成長ホルモンが不可欠で、体力の低下などを防いだり、心身を正常に維持する重要な働きをしていることもわかっています。
健康な成長ホルモンの分泌
「寝る子は良く育つ」ということわざがあります。
成長ホルモンは、一日の中にも分泌の周期があり、おもに夜10時頃から夜中の2時頃の睡眠中に一番多く分泌されます。
それは、 体の再生・成長には、細胞の不活動状態を必要としているため、 細胞の分裂・増殖・再生は、睡眠時などの安静時に活発に行われるからです。
又、成長ホルモンを分泌する脳下垂体は、副交感神経が活性化している条件下で、働きが良くなります。
リラックスしていると副交感神経が活性化します。
そのため、睡眠につくまえまでに副交感神経を最も高めておくことが、睡眠時の正常な成長ホルモンの分泌を促します。このように、成長ホルモンの分泌を高めるためには、リラックスが必要なのです。
緊張状態は副交感神経の働きを阻害して、成長ホルモンの分泌をさまたげます。
夕食後には、リラックスタイムを過ごしたら、そのまま眠りにつくという流れに持っていくことで成長ホルモンが正常に分泌される良い睡眠に繋がります。
この時間に、覚醒作用があるタバコを吸ったりカフェインを含んでいる飲み物を飲んだり、激しい運動や、目や脳に強い刺激を与えるようなことをするのは良くありません。
また、空腹を感じると緊張して交感神経が活発になりますので、空腹感に襲われる前に眠る事が大切です。寝てしまえば副交感神経が活発に維持されますが、遅くまで起きていると空腹感にさいなまれるばかりか、成長ホルモンの正常な分泌の時間を失ってしまいます。又、成長ホルモンは、直接体の各器官に働く場合と間接的に働く場合があり、間接的に働く場合は、成長ホルモンが肝臓などにはたらきかけて、ソマトメジンCという物質を分泌させ、それらが体の各器官に働きかけますので、夜寝るまでの3時間のお酒や食事も肝臓に負担を掛けるので良くありません。
若返りダイエットと成長ホルモン
成長ホルモンは必要な筋肉をしっかり維持しながら、余分な脂肪を分解する働きがあり、分泌が正常であれば、自然なダイエットになります。
成長期を過ぎると基礎代謝量は急減しますが、これは筋肉が減少して代謝量が減っているわけではありません。基礎代謝量の増減は、成長ホルモンの増減と密接な関係があります。睡眠時の代謝は消化ではなく、体内の脂肪を分解してそのエネルギーを作り出します。成長ホルモンの分泌は年齢とともにへっていき、基礎代謝量もへりつづけます。つまり、夜、脂肪を分解する量も減り続けているということです。ですから、中年を過ぎて良い睡眠をとらないと、より分泌が減るので,メタボリックを助長するということになります。逆に、この成長ホルモンを正常に分泌することで、寝ている間に脂肪を分解してくれるので健康な若返りダイエットになるのです。
食事と成長ホルモン
成長ホルモンはビタミンやミネラルなどと違い、体内にある細胞でしか作られないため、食事からはほとんど補給できません。しかし、成長ホルモンの分泌を刺激するアミノ酸に、アルギニンがあります。消化・吸収されたアルギニンは、血液中に流れると、成長ホルモンの分泌を刺激します。
適度な運動などで、破壊された筋肉細胞は、分解されてアルギニンなどのアミノ酸となるのですが、これらのアルギニンが成長ホルモンを刺激し、再びアミノ酸からたんぱく質となり、筋肉細胞を再生させるという新陳代謝を活性化しています。
結論から言ってしまうと、食事で成長ホルモンの正常な分泌を応援するには、基本的には栄養バランスの取れた3食規則正しい食事をして、アルギニンが多く含まれる食品などをうまく利用するしかないのです。
アルギニンは、 鶏肉、 海老、牛乳、きゅうり、マカ、小麦胚芽、大豆、ひまわりの種、落花生、ゴマ、クルミ、などに多く含まれていて、ビタミンB6(レバー、まぐろ、かつお等に多く含まれます)と共に摂ると効果的だといわれています。
また、成長ホルモンの材料となるビタミン、ミネラルの摂取も大切です。
人間は食事を摂ると、体中の血糖値が上がります。血糖値が上がると分泌される成長ホルモンの量が下がります。血糖値が上がったまま、成長ホルモンがたっぷり分泌される時である睡眠に入ってしまうと、成長ホルモンが正常に分泌されません。その上、起きているときよりも食べ物から栄養素を多く吸収していまうため、太りやすくなってしまいます。太りやすくなってしまうと、さらに成長ホルモンの分泌量が下がるという悪循環になってしまいます。